飴に棘

 

 



 いつかのどこかのだれか。
 彼、ないし、彼女。性別と年齢を非公開情報としているそのアバターは、狐をモチーフとしていた。名前をスズキという。
 アバターを一見しただけでは、出身はおろか性別も年齢も解らない。
 仮想空間オズは、隣に人を並ばせずに画面を通して目前で対峙する。
 交流するのにそれは不便であろうということで、知りたいアバターをターゲティングし特定のコマンドを打ち込めば、本人が公開している情報を知ることが出来る。年齢の公開非公開はまちまちだが、性別を隠す最大の理由は性的な出会いから逃れるためだろう。顔が見えずとも異性であればそれでいいという輩も多い。
 オズは姿形を自由に選べ、幾通りもの組み合わせで自分という分身を形作ることが出来るがモチーフとして人気のあるものは多い。猫をイメージしたであろうアバターは日本エリアではおそらく一番見かける。とはいえ、選んだのは狐だ。
 無機物、有機物、およそ神話や物語のなかにしか存在していないだろう形のモチーフまでアバター設定時に選べるようになっている。ただし宗教的な問題からあからさまに信仰の対象をイメージさせるパーツはない。
 神様にひとはなれない。
 信徒のため購入可能なアイテムは存在しているが、買ったことは一度もない。
 彼ないし彼女も、またその周囲も無神論者が多くを占めている。
 崇めるという言葉に近いものならある。だけど同等ではないから教義は存在しない。神や仏なんかよりも、もっと身近だ。天上世界に憧れはない。そこに彼がいないのなら想いを馳せることはないのだ。
 彼。
 会話したことは両手の指くらい。見かけるのはオズの管理塔の付近だ。中央にあるから一番人が多い。
 彼が良く見ているであろうコミュニティの罵り合いも煽り合いも頓着せずに己が世界を楽しんでいるような。

 その彼に新しい友人が増えたようだ。本や植物がたくさん構築されている円環に座り込んで話し込んでいるところを良く見る。
 わたしはそれを遠くから見ている。
 見ているだけでも多くのことがわかる。コミュニティでの整然とした思考を感じることができていたのに。
 それをずっと、見ていたのに。
 そうだ。
 彼が話しかけるのであれば、ずっと見ているわたしにだけでなければならないのでは。













■■■


 部屋の空気の冷たさで目が覚めた。
 布団から出ている腕をさすると、皮膚が冷たい。日中は汗ばむほどの陽気が空中を踊っていることもあるが、明け方はそれも大人しい。まだ夏というにはほど遠く、梅雨の兆しを見せないまま春が終わりを告げようと入念に準備をしているに過ぎない。
 枕元の携帯電話で時刻を確認し、小さく欠伸をする。画面の明るさに少し目が眩んだ。
 五月の早朝、午前五時前ともなれば、窓の向こうは暗い。マンションの共有廊下のほうにあるそれに、カーテンはついていない。外側からは防犯のために格子があり磨りガラスがはめ込まれている。共有部分に近いから人が通りすぎるのが良く解る。だけど朝早いせいで誰も通らない。ぼんやりとそれを眺めて意識の覚醒を待つ。携帯電話に設定したバイブレーションが動き始めるまで、およそ十五分ほどだ。毎日の行動は身に刻み込まれるものらしく、大体、この時間帯で目覚めるようになった。
 たたんたたんっとレールを走る電車の音が通りすぎていったが、鳴り止まない踏切遮断機の警告音がかんかんと空気をふるわせている。金属と金属がこすれあいきーきーと甲高い車輪が良く響く。電車が動きだせば人も動き出す。昨日から五連休がはじまった。高校生になったばかりの頃は、友人関係もまだ出来上がっていなくて学校にも慣れる前の連休に戸惑ったが、今年は二度目ということもあってそんなこともなく、けれど最終日に予定があるため遅くとも明後日には帰らなくてはならない。
 目覚めたときよりも幾分すっきりとした。隣に眠るひとを起こさぬようにベッドから身を起こし、テレビをつける。ゲームを楽しむために使っているらしいがしっかりと地デジも映す。薄型だ。音量を絞ってまだ眠っている健二を起こさないように気をつける。
 つけたテレビに、オズの管理塔が移った。中継ではなく、静止画だった。詳細を知るまえに内容がかわってゆく。オズ関連のことが地上波で流れるとき、うつるのは大抵、管理塔だ。ある種のシンボルとなっているし、あれを見れば一目で何を示しているのか解る程度に有名だ。
 早朝のテレビ番組は、想像以上に静かでかつ爽やかだ。昨日から今日の間にかけて起きた事件が順番に放送されてゆく。県内で起きたひき逃げ事件や国道での交通事故。見るともなし、聞くともなし、眺めつつ画面左上の時刻を追いかけていた。五時になるかどうかという時間帯に天気予報があり、それを見てからのジョギングが日課だ。近くの公園を走る。天気を知りたいだけならそれこそオズで見ればいいだけだけど、生活に欠かせないものとして誰の生活にも寄り添うオズがテレビをなくせなかったように、テレビにはテレビでいいところがある。
 管理塔が地上波で流されている。オズで、というよりも、インターネットを舞台にした犯罪は近年増えているらしい。インターネットという世界にオズという国があると考えれば、それも不思議ではないのかもしれない。らしい、だとか、かもしれない、となるのは佳主馬が物心がついてオズに登録したころから比べて特に発生率のグラフが上昇したとは思えないからだ。それほど密接にインターネットと称される仮想空間と隣り合わせで成長してきているが、実際のところ、ネット上での出来事が現実世界にも影響を及ぼすようになった、つまり同格と見られるようになったのはオズが誕生してからだとネットリテラシーの授業で習った。
 けれど、いくらネットと現実が同じ扱いを受けているとは言っても、現実で起きる犯罪のほとんどがオズでも行えるようになっているとは言っても、誘拐や監禁、殺害も傷害だって起きない。
 連れ去られたとしても、オブジェクトに閉じ込められたとしても、最終手段として回線の切断が可能だ。パソコンのコンセントを抜けば接続しつづけることは不可能である。
 格闘技系の競技でノックアウトされることはあっても、存在を害する事や消滅させることはできないのだ。電子で構築された世界に、死骸はなく、そういった概念も設定されていない。
 ある程度のことなら、やり直しや取り戻しの出来る世界であるからより正確に言えばアイテムの盗難程度なら訴えが正しいと認められた場合に限って運営権限で戻ってきたりするけども、よっぽど証拠を揃えていなければそれもまた不可能に近い。
 反面、自分の行動範囲でしか出来なかった友達は、インターネットを介せば世界中どこにでも繋がりを持つ事ができるようになった側面も併せ持つ。
 出会いを利用しての婚活や恋活も盛んだと聞く。
 現実世界の警察が犯罪者や街の安全を保つよう、データのバグは日夜優秀なエンジニアによって取り除かれ、サーバーも一度も落ちたことがないというのはある種のステータスを意味し、またそれこそが一度も壊れていない現実世界と等しいという証のようでもあった。
 どちらにしたって己を害するものからは自衛が求められている。
 メール等をうかつに開かないということは、一番簡単な防御法である。キングカズマでログインしているときも個別チャットで話しかけられることや文字数制限ありの簡易メールでメッセージが送信されてきたりするものの、添付ファイル付きのものは開かずに削除している。それ以外はスパムをのぞき、すべて目は通している。
 佳主馬の時間は無限にはないのだ。マーシャルアーツチャンピオン、つまりキングへのメッセージはマーシャルアーツ運営にまとめられて佳主馬に一括送信だ。
 オズ運営本部も対策に乗り出し、世界を泳ぐクジラを守衛の任につけ、眷属も増やした。さらに三六五日四六時中、ゲームマスターと呼ばれるヘルプデスクは稼働していた。全世界にネットワークを根のように張り巡らせているせいで、働き手は世界中にいるし、オズのコミュニケーションの要である自動翻訳機能は実用範囲で正確だ。それでもとんでもない変換をされることもあるらしいが、たまに良くある事として笑い話になる。
「んー……?」
 もぞりと隣で眠っていた健二が身じろいだ。
 画面も移り変わって、屋外に立つ若い女性を映し出した。高い声で元気に離しだす。真っ暗のなか、木々が茂った公園のようなところにいる。前は確か桜がちらほらと咲いていたけれどすっかり来るべき雨期への準備を整えたようだ。
「……朝?」
「だけど、まだ寝てていいよ。走ってくる」
 まぶたを懸命に開こうとしているのを手でふんわりと抑えた。温度を感じない。同じ部屋でいたからだろう。生きているので呼吸するたびに動いている。人間、生きている限り完璧な静止など無理な話だ。
「ああ。……げんきだなぁ」
 苦笑気味にもらされた言葉に、佳主馬はすこし困る。昨夜、無茶をさせた覚えはきっちりとある。同時に基礎体力の違いを今、思い知っている。
 謝ろうかな、とも思ったけれど、やめた。なにか違う。だって無理矢理だったわけじゃないし。
 変わりに忠告めいたことをからかうようにして言った。
「ばてるの早すぎ」
 佳主馬は健二の顔から手を離さない。
「そう、かなぁ」
 目覚めるには早すぎるという意味でもあったし、起こすつもりはないという意思表示でもあった。
「あ、今日はいい天気だ」
 太陽が隠れたままの公園は、撮影のために照明が灯され明るい。キャスターのよこに降水確率が記されたボードがあった。見る限り晴天。また場面が変わってテレビ局内に戻った。全国の天気予報をこれからするらしい。連休が始まったばかりだからか、道路渋滞情報までテロップで流れている。
 ニュースとして世に出さなければならない情報は溢れていた。
 テレビを通して世界を知る。もしくはインターネットを通して世界を見る。どちらにしたって起きた事件や出来事は遠いのだ。実感があまりない。
 連休。毎日が日曜日。
「さて、そろそろ行ってくる」
 指でまぶたを撫でて、立ち上がる。離れがたい。触れていたい。

「んー……きをつけてね」
 眠そうにだるそうにふにゃふにゃとした言葉を受け止めて佳主馬は言う。
「いってきます」
 祝日が続く。だから佳主馬は東京へ来た。健二のもとへ来た。逢いたいが情で見たいが病、ならばこそ当たり前の帰結として訪れた。触れたいは何になるのだろうか。



***


 休み、というものは自分で確保するものだと流れ行く車窓を見ながら佳主馬は考えていた。
 新幹線の揺れは静かで過ごしやすい。家族連れが多いが、窓際の指定席を取ったため、混雑はそう見受けられない。もしくは今日が連休の中日であったからか。
 天気予報通り日本列島津々浦々、太陽が張り切って雨と雲を退けていた。行楽地も観光地も大喜びで、幼い子どもがいる親御さんは大弱りだっただろう。たしか、佳主馬の家族も他者を元気にするためなら自身を引き千切るパンのテーマパークへ行ったはずだ。
 今回、佳主馬が健二とともに過ごす為に作り出した休日は、五連休のうち最初の三日間だけだった。
 三日間を待つのは一日千秋。三日間を過ごすのは一刻千金。
 とはいえ、五連休最終日にマーシャルアーツのイベントがあるとなれば、仕方がない。世界大会出場権を掛けたランキング上位者だけのトーナメントマッチが組まれている。佳主馬も当然、参加する。
 学生であるからして社会人に比べれば当然休みは多い。大学生と比較すれば負けるだろうが。それでも土日祝は休みと行って差し支えないし、秋を除けば季節を冠する長期休暇も当然、休日という扱いになる。
 だが、暦上はたとえそうであったとしても完全に休むことはあまりない。やる事がないと嘆く時間がないと嘯ける程度に忙しくしているものの、健二のもとから三日で離れなければならなかったことを思えば忙しいのも善し悪しだ。
 来年は受験生にクラスチェンジする予定だ。気の早いものならば今夏を準備期間にあてるのだろうが、佳主馬に限っていえばまだその気配は遠い。
 学びたい方向性はとっくの昔に決まっていて、だからこそ未来までの道筋はそれなりに整えられていた。
 漠然とした未来はそれだけで朧げになり、霞む。だが積み重ねているものがあれば霧は容易く吹き飛んでゆくのだ。吹き飛ばしたのは佳主馬が中学に入りたてのころに取得した特許だ。ゲームに規格したプログラムだが、その経験があるからこそプログラマになりたいと考えている。けれど純粋にマーシャルアーツも楽しいから続けたい。勝ち続ける理由はないけれど負ける理由も止める理由もまたない。
 理由があって結果がある。プロセスを経て結果を得る。
 単純な道筋だが、まっさらな更地に道をつくってゆくことは想像よりも大変なことだろうし、将来像を描いている同級生は佳主馬のクラスで全体の一割も居ない。二人居る仲の良い友人のうち、江本は幼稚園の先生になりたいと言って文化選択の授業を音楽にしているはずだ。ピアノを弾けなくてはならないらしい。ちなみに佳主馬と残るもう一人、宇野とで仲良く書道を選んだ。
 車掌が車内にアナウンスを流す。物販のカートがやってくる。隣の席は連休を商機としてパソコンを叩き込んでいるビジネスマンだった。大変だなぁ、と人ごとながら思った。
 乗り込む前に買い込んだサンドイッチを鞄から取り出した。東京駅には売店がたくさんある。
 高速で移動する車窓から望めるのは、家屋の屋根だ。スピードを殺さぬように直進してゆく機械は、必要性からか高い位置にある独自のコースを突き走ってゆく。
 そのうちに田畑が広がりだして、また街並に戻る。すっかり通い慣れた道だ。
 行きはよいよい帰りは怖い。そうだと解っていてなお通う。
 どうにも重苦しい。おそらくは不安で。嫌になる。
 それを飲み込むように、持ち込んでいたペットボトルに口を付け、コーラを流し込んだ。少しだけぬるい。
 往復を繰り返すたびに、同じ事を感じている。これも弾ける泡と共に空気へ溶けてゆけばいいのに。
 いろんな事を佳主馬が決めて、ここに至った。
 今日、帰る選択をしたのも佳主馬だ。
 ゆったりとした座席に背を預け、携帯電話を手持ち無沙汰にもてあそび、外を見る。
 晴れ晴れとした青空だ。文字通り、五月晴れ。深い緑の山が遠くて小さい。登ってみれば大きいのかもしれないが登山の予定はない。
 携帯電話の充電は満タン。使い込めばすぐに消滅してゆくのがトゲのような傷だ。繋がる手段をなくしてしまう。
 使えばなくなるジレンマは現在隣人が使用中の新幹線のコンセントを使うことで解消できる。それに東京から名古屋までは二時間と少しだ。使い切ることにはなるまい。
 個人を認定するためのIDとパスワードの入力はいわば儀式のようなものだ。城に入場するための許可を得るための。もしくは家の玄関。
 覚えているそれらを難なく入力し、だけど確定をしない。文末で入力キーが点滅している。
 新幹線に乗るまでは、なかなか太陽が空気を暖めきれないようで少し肌寒かった。健二は薄手のジャケットを羽織って、改札のところで見送ってくれた。朝起きて、昼は遊んで、夜を一緒に過ごして、お風呂を借りて。だから二人とも香る匂いが同じだ。そう思うと少しだけ気分が晴れた。
 点滅を確定させる。ログインするまでのわずかな時間に何を思うでもなく、いつもどおりの場所にキングカズマが現れた。
 障害物をゆっくりと避けてすすむ大きなクジラ。青と桃。それらに従うように、眷属であるかのように小魚が空を泳いでいる。
 中央管理塔、書物や観葉植物などのオブジェクトで茂る円環、連休だからかそれとも昼間であるからか、アバターは平日よりも少ないような気がする。リアルが充実している人が多いようでなによりだ。
 佳主馬と健二の関係を、なんと呼ぶのだろうか。
 考えだすと、電車の勢いとは逆にいつも立ち止まってしまう。
 付き合っているとは言えない。
 本音を言えばそう言い切ってしまいたいけど、言ってはいけないと、そう考えている。佳主馬の気持ちははっきりと自身のことだから解っているし、やることだってやっているけど、この関係に名付けられずにいる。
 だって健二の気持ちを知らないのだ。
 柔らかいシートに背を預けて、携帯電話の画面を眺めて半眼になる。聞けば解る話題に触れたいのにできないジレンマに見立てて睨んでみる。佳主馬の分身はこちらのことなど知ったことかと長い足をぶらりとさせて円環の縁に座り込んでいた。
 だが、その佳主馬の視線に堪え兼ねたのかどうなのか、携帯電話が震えた。基本的にマナーモードを解除しない。着信音に驚いたり迷惑をかけることは多々あれど、その逆は滅多にないからだ。握っているからか、くぐもった振動音。車内は人の話声や新幹線の稼働音でざわついているし、隣のビジネスマンのタイピング速度に衰えが見えない。バイブに慣れると、着信音よりも低い振動が大きく感じるようになったが心配は杞憂のようだ。
 良く知った相手からのシークレットチャットの要請だった。佐久間から。チャットということはオズに接続しているのだろうが、見える範囲には居ない。
 なんだろう、と思いながらも回線を繋げる。kazmaさんが接続しました、と表示されたのち、数秒のローディング後に画面のなかに一つの場がもうけられた。キッチンもトイレもないパステルカラーの淡い色彩のワンルーム。観葉植物やテーブル、ソファのオブジェクト。窓はない。ウサギの背後に扉がある。玄関の意味なんだろう。
 中心に据えられたテーブルのうえに、焼き菓子らしきものが乗っている。佐久間がチャットマスターの場合、こういった小道具が散りばめられる。健二は本棚がぎっしり壁をうめているし、佳主馬はデフォルトをそのまま利用する。
 佳主馬がチャットルームに参加したことに気づいた二人が揃ってこちらを見た。アバターはそれぞれリスとサル。そのうちサルがずいっと顔だけで飛んで来た。先ほどまで胴体があって座っていたはずなのに、一瞬で消えた。この身体の構造は常にどうでもいい謎に包まれている。

sakuma : キング! こっち来てんなら教えてよ!

 あまりの顔の近さにそのまま下から上へ蹴り上げたくなるのを我慢して、文字を打つ。
 そもそもここは対人エリアじゃないからやりたくても出来ない仕様だ。残念。

kazma : 佐久間さん、久しぶり
sakuma : おう! 元気してる? キングのお名前だけならあちこちで拝見してっけど!

 佳主馬の周囲をくるくると転回している。高さは目線。うわぁ、動き回られるとうざい。
 ぽてぽてという効果音がつきそうな歩みでリスが寄って来たから、屈む。そうすると佐久間の輪から離れて健二と近くなった。

kenji : いい加減座れば、佐久間

 リスの身体は飛ぶことが出来ないようだった。確か、佐久間がこのアバターの姿を設定したはずだから、もしかすると隠し要素的に何かが仕込まれているのかもしれない。あったらあったで面白い。だがさて健二にそれを扱えるのか。マーシャルアーツの操作でいえば、壊滅的だったが。

kazma : そういえば佐久間さんは何してたの?
kenji : さっきまでバイトに明け暮れてたんだよ。そんで終わったからってウチが襲撃された
kazma : なにそのニアピン
sakuma : ガチでか!

 答えた途端、ぐんっとサルの高度が下がった。頷くエモーションを表示して、佳主馬は立ち上がりついでにリスを鷲掴んでソファへ行き隣にリスを置いて座った。アバターの等親から判断すれば、ウサギの一歩はリスの三歩だ。佐久間は飛べるから比較にならない。
 サルは向かいのソファで腰掛けた。
 これでどうにか、団らんできる配置具合になった。

kazma : バイトってなにやってるの? オズ?
sakuma : うん、おれオズの忠実な企業戦士
kenji : バイトだけどね
sakuma : 首切られる俺の屍を超えてゆくんだよ、世界企業オズは!
kenji : バイトだもんね
sakuma : ちょーせつない
sakuma : おれだって遊びたかったのに。OMCの世界戦近いから話聞きたかったのに

 リスが楽しそうに笑った。
 それを受けて、佐久間は再びはやした胴体の肩を落とした。
 佳主馬はそれを見て笑いはしたが、心には靄が残った。仲が良すぎるんじゃないのこれって。友達同士ってこんなんだったっけ。でもなぁ。

kenji : ってかそれがあるから今日帰ってるんだよ、佳主馬くんは
sakuma : あー……そか。そかそか

 佳主馬の予定をさらりと健二が言い、それに頬がにやけた。誰も佳主馬に意識を向けていないだろうが、とっさに手で顔を整える。
 新幹線は今も通常運行、名古屋へ向けてひた走っている。ちらっと時刻を確認。大体あと一時間はこのままだ。
 佳主馬は健二に好きだと言った。
 健二はそれに、うん、って言った。
 二年くらい前の夏の事だ。上田にある本家の、納戸で。
 身体を繋げたのは、それから一年後の夏。だから去年。晴海の花火大会を見た後で。
 翌朝、というか次の日の昼前に目覚めたら、健二が隣に居て、お互いに凄まじい格好をしていたし、布団だってものすごいことになっていたので後始末に追われて、正直なところ、思い出したくない。げっそりした。気持ちいいだけじゃなかった。またしたいけど。二度としたくないとは、思わなかったけど。 ・