スタイル

 

 

マーシャルアーツのことを、教えてあげる。
と、キングから言われたので健二は自分にあのアバターのしっぽがあればリアルに振りちぎれんばかりになっていただろうとおもう。
なにせそのくらい嬉しかったので。
マーシャルアーツの結果は当然、ぼろぼろに負けてしまい、その上、それを後ろから見ていて自分達もやると参戦してきた陣内の子供たちにすら負け、これはもう才能ないな自分とこっそり落ち込んでいたら佳主馬が基本的なことを知っているかと問うてきたので知ってるよステータスでバランスをとるんだよねと答えればそうなんだけど、なんか違う、まさかとはおもうんだけど、どういうスタンスで戦ってるの? なんかあんまり考えてなさそうだけど。とまで言われてそこからキングのやり方を聞いた。
今思えば、贅沢だった。そしてキングが佳主馬のいう通りに動いて居るのを見て、感動すらした。

金曜日の夜は、OZを通じて東京のお兄さんとチャットをすることが増えた。
Webカメラを併用してのチャットはなかなかに楽しい。文字だけではなく顔をみることができるそれは、現実的な距離をあまり感じない。
夏以前は自ら連絡を取るということが少なかったので、この変化はよいものだと父も母も言う。
二人ともそれとなく自分のことを心配していたようだから、今までは悪かったなぁと少しだけ思うようになって、それは行動にも出た。学校で友達を作ろうとしている。
お兄さんには、自分から話しかけることが多い。いいなと思えた人を知りたいと思う。
話すことはたくさんあったし、尽きることはなく、それから稀にある沈黙も相手があの人なら別に良かった。

「そういえばさ、おにいさん。アバターのカスタマイズが終わったっていってたよね? なら僕ともう一回マーシャルアーツやってみる?」
「や、やる! あ、いや、やってみたいです」
「なんでそんなふうにかしこまるの?」
とは、言うものの原因なんて解ってる。自分の発言が原因だ。
人の印象というものは最初で決まるらしいから、つまり僕の印象はあれなのだ。あのまま。酷い。
「ケンジのAIをマーシャルアーツ用に変更するから待ってね」
「ちゃんと考えてプログラム組んだ?」
「佳主馬くんから言われたことをふまえて組んでみたんだけどねぇ。やってみないとどうか」
へへ、と笑う顔は馴染みのある顔だ。親しみやすくて、お兄さんらしい顔だ。
「ふーん? 耐久とかスピードとかも?」
「まぁそれもやってみてのお楽しみ、だよ」
「・・・ごもっともで」

確かにそんな会話をかわして音声チャットを切断した。
戦うのは好き。だからマーシャルアーツをする。勝つのはもっと好き。
だけど、この人とはなんだか違う。カズマがケンジに勝つのは当然。だけどそこに勝ち負けの判断はない。
一緒に遊べたらいい。勝敗で語るものではなく、そんなものではなく、一緒に。あの夏のように。

健二のアバターの見た目からしてパワーファイターとは考えにくかった。
だからスピードで押してくるのは想像通りで、けれど予想以上のスピードをあの黄色のリスは身につけていた。
それには佳主馬だって眼をみはった。同時にキーを打ち込む速度をあげる。よりモニターに集中する。
触れられなくては話にならない。
健二のアバターは自分の攻撃をすべて避ける。動きはとまらず、ガードをすることもなく避ける。早すぎて残像さえ見えるようだ。
それでは決着はつかないし、なによりも試合にならない。格闘であって、回避を競うものではないからだ。
だから、カズマは先ほどからあともう一歩のところで避けられていた手を更にもう二歩ほど踏み出すことにした。
つまり空振りを何度もさせられていたのだ。ただ、捕まえられない速度ではない。想像よりも早かっただけで。
(どんなカスタマイズしてきたんだよお兄さん)
拳を前に突き出す、下へ避けられる。うんその通りだ、そこで更に足技を組み入れる。蹴り飛ばそうとして避けられた、今度は一歩後ろへ。だから更に踏み出して踏みつけにいく、今度は上へ、そうくるとおもっていたから、予測していた位置で手を振り払った。
(あたった、ガードは・・・してた?)
木の葉が風に吹き飛ばされるように黄色のリスが勢い良く後方へ払われていった。見る間に遠くへ移動していって、「ひゃあああああああ」なんていう、なんだか情けないログがながれてくる。瞬時、ぽかんとした。いやだってまさか耐えもせずにそのまま飛ばされるのは、予想外すぎる。
(え? あっ、だからAIの変更してきたのか。ってまてまてまて、お兄さんこのままじゃなんかにあた)
る、とまでを考えずケンジのあとを追いかけた。見送ってちゃいつまでも捕まえられない。
OZでの生活で不便をきたすくらいの戦闘用AIってどうなんだ。確かに戦闘スタイルを考えてプログラムを組めと言ったが、なんでこんな極端なことになるんだ。どうなってんの。

マーシャルアーツとしては、自身のもつ最短記録に並ぶくらいだろう。
公式戦ではないから正確なことはわからないが、体感としてはそれくらいだ。
ただ、この際そんなことはどうでもいい。
「ちょ、おにいさん!」
「カズマくん、とまんないんだけどこれ!」
さらに加速をかけて、慣性のまま飛んでいたケンジのしっぽを捕まえる。とりあえず、ぐいっと抱き込んで、そのままの勢いでカズマは少しだけ移動して、空中で止まった。
「あ、ありがとうね。び、びっくりしたぁああ!」
驚いたのはこっちだとおもうなぁ、と思うままに打ち込んだ。
「なにやってるの!」
「いや、だって、キングと打ち合いになったらどう考えても負けるじゃない。だから最大までスピードと反応をあげたんだよ。そしたら耐久とかパワーとか、あと動作制御とかが犠牲になっちゃって。やりながらさぁ、あ、これぼくから仕掛けらんないって思ったんだけどもう遅くて」
「お兄さんってバカなのか賢いのか、ほんっとわかんない。あと、もうやらないからそのAIかえてきなよ。今のお兄さん、ちょっと動いただけであの無駄に早い動き見せるんでしょ?」
「うん、そうなんだよね。だからぶっつけ本番」
「・・・そんじゃ戻ろうか」
カズマがケンジを片手で抱いたまま、あいている手で操作をしゲートを開く。
電脳世界は便利だ。システムにのっとれば、なんだって出来る。
ゲートを開いてから、ふと抱えているリスの頬を引っ張ってみた。のびた。
「キング?」
「いや、なんかやってみたくなって。お兄さんに似てるよねケンジさんは」
「そう引っ張りながら言われるのは大変微妙な気持ちになるんですがキング」
「佐久間さん、やっぱすごいな」
「話きいてますかキング」
「あとさ、お兄さん。マーシャルアーツさぁ」
「はい」
なんかこう、自分がやったことを知らない誰かがやってこの人が負けるというところを想像して、おもしろくないなと思う。
だってほんとうはとてもすごいひとなのに。
自分が感服してしまうくらいの、そんなひとなのに。
「いや、いいや・・・」
ケンジがはてなマークを飛び交わせた。あまりカズマはエモーションで自分の感情を表現しないが、ケンジはよく使う。

お兄さんとマーシャルアーツをできたことは、楽しかった。 同時に自分の知らないところでそれをしている可能性に気づいた。 あと、このステータス配分の駄目さ加減。

(なんだ、このきもち)